皆様は毎回の透析療法と平行して体重測定、血液検査やレントゲンなど数々の検査を受けています。これらの検査は、ご承知のようにカラダの健康状態をチェックするだけでなく、適切な治療を受けるために必要なのです。病院から渡される検査結果の表にはたくさんの項目が記載されていますが、その中には何を調べる項目なのか?それにどういう意味があるのか?また、検査結果の数値は許容範囲内なのか、どうなのか?よく分からないことがありませんか。以下に、皆様に関係の深い検査項目について、簡単に説明をいたします。
kensakenn検査結果の利用について

  病院からもらう検査結果は、ご自身の体調を表している日記だとおもって、捨てずに日付順に綴じて大事に保管してください。

  とくに気にかかる検査項目は、線を引いたり、別にグラフや表を作ってください。

  体調のよかったときの数値と現在の数値、体調の悪いときの数値などを比較して自己管理にうまく利用してください。

     
  基準体重とは、余分な水分が体内にない、ムクミのない状態の体重。言い換えれば透析後に到達すべき体重をいいます。また正常な心胸比を維持している体重でもあり、血圧や体調が正常に保たれている状態の体重をいいます。毎回の透析では通常、基準体重と測定した体重の差で除水量(水分過剰量)が決められています。水分過多は、心臓をはじめカラダの諸器官に過重な負担をかけているので、次の透析までの体重増加量=水分増加量に注意が必要となります。また、基準体重は常に一定ではなく、水分以外のカラダの肉や脂肪の増減による体重変化は、基準体重に反映させる必要が生じます。また、除水量が多くないのに毎回のように透析後半で血圧の急激な下降や透析後の強い倦怠感が続く時は、設定された基準体重が適正でない場合があります。  
クレアチニンは、筋肉内で産生するアミノ酸代謝物で、推算糸球体ろ過率(GFR)の算定に使われ、腎機能指標として広く普及しています。腎不全で上昇しますが、筋肉内で産生するので、筋肉量の多い人、仕事や運動で筋肉を多用する人は他の人より高値になります。また、透析者であまりにも高い数値を示すときは、透析不足が考えられます。

β2クログロブリンは、低分子量のたんぱく質で、透析者の重大な合併症である透析アミロイドーシス(骨、関節部などへのアミロイド沈着)の原因物質です。分子量が比較的大きいため、通常の透析では除去出来にくいので、最近では排出効率のよいハイパフォーマンス膜の透析器の使用や吸着器(リクセル)を使った治療も行われている。また、β2MGの主な発生原因のひとつとなる、透析液に使用される水を、更に清浄化する努力が続けられています。

カリウムは、筋肉や神経の興奮・伝達・収縮に関係する電解質です。カリウムの数値が高くなると手足や唇のシビレ感、筋脱力感などが現れ、心臓の働きを妨害し、脈が乱れ、最悪の場合は心臓が停止します。腎機能が正常な人では、摂取量と同量のカリウムが尿中と大便に排出され、うまくバランスがとれています。一方、尿の出ない透析者の排出経路は、大便と透析だけです。この排出量に合わせると、透析者のカリウム摂取量は1日あたりで2000㎎程度に制限する必要があります。カリウムは果物、野菜、肉、魚などほとんどの食品に含まれています。とくにカリウムの多いバナナやメロン、芋や豆類などを一度に大量に食べることは要注意です。しかし厳しすぎる食事制限は、エネルギー不足や食欲不振をまねき、体調不良になるので注意してください。最後に、腹膜透析の場合ですが、腎正常人と同様にバランスがとれているので、通常はカリウム制限をする必要はありません。

ナトリウムとは、端的に云えば食塩のことで身体の水分に影響を与え、血液量を決めるミネラルです。体内のナトリウム濃度は常に一定に保たれているので、塩分を摂ると体内の塩分(ナトリウム)濃度を保つために、口が渇いて身体が水を要求します。このため塩分を多く摂るほど、多くの水を摂ることになります。腎臓が正常であれば、余分な水と塩分は尿として排出されますが、尿の出ない透析者ではムクミや体重増加、血圧上昇の原因となります。除水量の過多や高血圧を防ぐためには、常々できるだけ塩分を摂らないように努めることが大切です。

血小板は、血液凝固に関係する血球です。数値が低いと再生不良性貧血や急性白血病などの血液疾患が疑われますが多くは一過性のウイルス感染が原因です。また、透析の際に血液の凝固を防ぐ薬剤、ヘパリン投与によって血小板減少症が起きる場合があります。一般には血小板数が20,000/μℓ以下になると止血困難になるとされていますが透析患者は50,000/μℓ程度でも注意が必要とされています

γ-GTPは酵素の一種であり、アルコール性、薬剤性肝障害、脂肪肝や胆汁うっ滞などで顕著に数値が上昇するため肝臓、胆道系の疾患の診断、経過観察に用いられています。加齢や透析年数が長くなるにつれ、数値は上昇傾向にあります。

CRPは、風邪、肺炎、化膿などの感染症やリウマチ、膠原病、心筋梗塞、心不全、ガンなど急性炎症や急性膵炎などの組織崩壊で敏感に反応し、上昇することから炎症のマーカーとして用いられます。また、妊娠や喫煙でも数値が上昇します。CRPの数値は、変動が速やかである

中性脂肪は、脂肪成分のひとつで、男性は女性より高く、食事中の脂肪量に関係し、多く食べるほど高い値となります。遺伝性、食事性、糖尿病、肥満などで高い数値を示し、動脈硬化の危険因子のひとつです。動脈硬化は、心不全、脳血管障害、虚血性心疾患の原因であり、これらの疾患が透析患者の死亡原因の約45%を占めていること。このため動脈硬化に関係する危険因子には、とくに注意が必要とされています。

アルブミンは、体内にもっとも多量に広く分布するたんぱく質で、血管内に3040%、残りは皮膚、筋肉、リンパ液に多く存在します。アルブミンの役目には、血管内の浸透圧の維持や脂肪、ホルモン、金属イオンなどを搬送したり、強力な抗酸化物質として活性酸素の産生抑制、不活性化をおこないます。透析者の栄養状態を診断する重要な指標であり、低値は栄養不足、胃腸疾患、感染症などが疑われます。

グリコアルブミンGAは、血液中のアルブミンにブドウ糖が結合した物質です。数値はアルブミン総量に占めるGAの割合で、Hb値が10.0g/㎗以下の場合に血糖コントロールの指標として使われます。糖尿病の合併症を防ぐには24時間の血糖コントロールが必要です。GAは一回の測定で2週間~1ヶ月間の血糖コントロール状態を大まかに知ることができるので、一時的な異常値に左右されずに、治療効果を確認することが出来ます。ただし、GAの数値も栄養不良や肝硬変、ステロイド剤の投与などによって影響を受けて、異常値を示す場合があります。

 

   心胸比は、胸のレントゲン写真を撮って心臓の一番大きい横幅()と胸の一番大きい横幅()を測定し、AをBで割った数値のことです。このため心胸比は心臓の大きさに左右されます。体内の水分が過多になると、血液量も増えて心臓が肥大するので、心胸比も大きくなります。ただ、若い時からスポーツをしていたなど、元々心臓の大きい人がいますので、許容範囲外でも問題のない場合もあります。

尿素窒素は、たんぱく質の終末代謝産物である尿素に含まれる窒素のことであり、老廃物として血中から腎臓で尿中に排出されています。腎機能の指標とされ腎不全で上昇します。透析療法が対象とする主要な除去物質の一つです。数値が異常に高くなる原因は、たんぱく質の過剰摂取、透析不足、消化管出血、重症感染、ステロイド剤の内服などです。一方、数値が低すぎる時は、たんぱく質の摂取不足が考えられます

尿酸は、プリン体(アルコールや動物の内臓、肉汁に多い)の最終代謝物で、痛風や尿路結石の原因となります。腎不全では高い数値を示すことが、多いようですから注意して下さい。繰り返し痛風発作をおこす人には、十分な透析療法を行うことと薬剤による治療も必要となります。

リン、カルシウムとともに骨に大量に蓄積されています。健常者では、余分なリンは尿から排出されますが、1回4時間の透析では最大800㎎しか排出されません。リンの血中濃度が高い状態が続くと、二次性副甲状腺機能亢進症の原因となります。これは副甲状腺ホルモン(PTH)が異常に高くなる症状です。PTHが高くなると骨からカルシウムが血液中に異常に溶出します。このため骨がもろくなり、骨折などの原因となります。また血液中の過剰なカルシウムやリンは、異所性石灰化症(血管や関節組織などに石灰が沈着すること)の原因となります。透析者が余分なリンを排除するためには、リン含有量の多い食品の摂取制限とご自身のカラダに合ったリン結合剤(カルタン、レナジェル、ホスレノール、リオナ、ピートルなど)の服用で厳格に管理する必要があります。厳格管理は一方で、たんぱく質の摂取低下による栄養障害をまねくので、摂取制限にも注意が必要です。

カルシウムは、ほとんどが骨にあり、骨の強度を支えています。カルシウムの血中濃度は、副甲状腺ホルモン(PTH)やビタミンDなどによって維持されていますが、ビタミンDが欠乏状態にある腎不全では数値が下がります。数値が下がると副甲状腺がPTHを分泌し、骨からカルシウムを血中に溶出させて、血中の濃度を正常に保とうとします。カルシウムはリンと共に、透析者にとって重大な合併症のひとつである二次性副甲状腺機能亢進症と密接な関係を持つ電解質です。

白血球は、からだに備わっている感染防御作用や免疫機構の主役です。数値が高い場合は、シャント感染など細菌感染症が疑われます。透析者は、健常者に比べて白血球数が少ない傾向にあり、健常者の上限あたりの数値でも注意が必要な場合があるので、ご自身で平常時の数値をはっきりと把握しておく必要があります。とくに、長期の透析患者では、一般に免疫能が低下している傾向があります。感染症や悪性腫瘍を発症していても白血球の増加が軽微にとどまる場合もあるので、原因不明の熱などが続く場合は、血液検査上の変化がなくても注意が必要です。また、低値の場合は悪性腫瘍や血液疾患などが疑われます。

GOT、GPTは、国際的にはそれぞれAST、ALTが正式な呼称とされている。これらは肝臓で作られる酵素で、細胞の変性・壊死によってその値が上昇します。肝・胆道疾患、心臓疾患、溶血性疾患の診断に用いられます。透析患者の数値は、健常者に比べて明らかに低い数値を示しますので、数値が低くても肝炎など異常に注意が必要です。

コレステロールは、肝臓で作られる脂肪成分で細胞膜やステロイドホルモン、リポ蛋白の産生に必要な成分です。血中の
総コレステロールTC数値が高いと動脈硬化性疾患のリスクを高めますが、70/㎗以下と、低値でも死亡リスクが高くなります。善玉コレステロールと呼ばれ、動脈硬化に対して予防的役割を果たすHDLコレステロールは、40/㎗以上を目標としましょう。悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールは、透析者では70100㎎が目標値です。  

総たんぱくは、血清たんぱくのことで、アルブミン約65%、免疫グロブリン1520%、残りは各種たんぱく質で構成されています。ネフローゼ症候群、肝機能障害、骨髄腫、栄養障害の診断に利用されます。透析者では、血清タンパク量は健常者に比べ数値が低いことが多く、食事からのタンパク摂取不足、透析不足、慢性炎症、胃腸障害などが原因と考えられます。

血糖は、血液中のブドウ糖(グルコース)の濃度のことです。12時間以上絶食した状態の値を空腹時血糖といい糖尿でない健常者では110を超えることはなく食事で上昇しても、2時間後には110以下に戻ります。空腹時血糖が126以上、食後で160以上は高血糖です。血糖値が50以下は低血糖とされ、動悸、震え、眠気などの症状に注意が必要です。

ヘモグロビンA1cは、赤血球中のヘモグロビンにブドウ糖が結合した物質で、数値はヘモグロビン中の割合をパーセント()で表したものです。HbA1cは、過去12ヶ月前の血糖値を反映しますので、当日の食事や運動など短期間の血糖値の影響を受けません。糖尿病の指標として最も一般的です。



本表には貧血・赤血球に関する検査数値の記載は、ありません。エルピス健康情報「貧血(腎性貧血)」を参照してください。